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「違う、違う! 俺は、嬉しくて笑ったんだよ?」
俺は慌てて訂正する。ここはしっかり言葉にして彼女に伝えねばならない。俺が必死に訴えると、彼女は長い髪を垂らしながらゆっくりと顔を上げた。
「嬉しくて……?」
不思議そうに尋ねる彼女に、俺は力強く頷いた。
「そうだよ! 嬉しくて! 自分の好きなものを作ってくれたら、普通嬉しいだろ? だってさ、俺のために時間を割いて、指に火傷してまで作って、リボンだって頑張ってつけてくれて……」
そこまで言うと、彼女は赤くなっていた顔を更に真っ赤にして、自分が作った黒焦げのクッキーをまた自分の後ろに隠してしまった。その姿がどこか可愛くて、俺はまた頬の筋肉が緩みそうになったが、またあらぬ誤解を招いてはいけないと思い、グッと口の端を下げた。
「愛しの君へ」
すると、いきなり彼女の口から言葉が漏れる。俺は思わず息を吞んだ。それは、俺の大好きなバンド、niyaの代表曲のひとつだった。
「歌詞いいよね……黄色いリボン……」
彼女の唇がまたゆっくりと動き出す。ほんの少しだが、笑ってみえる。俺の中では、静かに心が震えていた。彼女がniyaの曲を聴いてくれたこと、その歌詞をなぞってクッキーに黄色いリボンをかけてくれたこと、その両方が嬉しかった。俺は先ほど表に出せなかった笑みを、ここぞとばかりに放出した。
「その曲、よくギターで練習してた。すごくいい曲だよね」
彼女は何も言わずに、一回だけ首を縦に振った。たったそれだけのことなのに、俺は彼女の反応がすごく嬉しくて、大げさかもしれないが、彼女との距離が少し縮まったような気がした。
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