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「な……なんで……?」
私は狼狽えながら、自分の手と彼の手を交互に眺めた。
次に夢ではないかと思い、自分の両頬をバシバシ叩いてみたが、痛いだけでなかなか醒めない。
「天罰なんじゃない?」
低くて甘い声が私の耳を撫でる。
頬を手で覆ったまま彼を見ると、口の端がキュッと上がっている。いったい、何がおかしいのだろうか。
──それに、天罰って何?
「ほら」
訳が分からず固まっている私に、彼は手首を差し出してきた。手首には白くて細長い紙がグルリと巻かれている。よく見ると、紙にはバーコードが書いてあって、バーコードの下には名前が書いてある。私は目を丸くした。
「サイトウアキラ……?」
斎藤彰の表記の上に、カタカナでそう書いてある。
"天罰なんじゃない?"
さっきの彼の声が頭の中で反響する。
私は一旦後ろを向いて、彼を自分の視界から消した。
たしかに"サイトウアキラに天罰を"とお願いしていたが、それはもちろん、クラスメートの西藤あきらのことを指している。
「おかしいと思ったんだよ」
彼の口から言葉が漏れる。
目線は遠く、表情はどこか儚げだった。
「気付いたら神社にいるしさ、さっきまで何やってたか全然覚えてないし……でも、君に出会って確信した」
数秒して、視線がぶつかる。
「だってさ、そう考えると、全部辻褄が合うだろ?」
彼は特に驚いた様子もなく、涼しげな視線をこちらに向けている。
──いやいやいや。
私は全力で否定した。でも、いま目の前で起こっている事象を説明する手段が見当たらない。あり得ない。でも、あり得ないことが起こっていることを認めざるを得ない。
「つまり……」
信じがたい。やはりあり得ない。
だけども、その気持ちとは裏腹に私の唇が動く。
「私が、あなたを殺した?」
夏の風が私たちの間を通り抜け、私の長い髪を攫っていく。その棚引く髪の隙間から、彼の笑顔が見えた気がした。
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