Side B

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「わ……私、友達いたことないので……な、何したら、友達になるのか……分からないんですけど……」  呼吸を思いだした口から、息と一緒に言葉が這い出ていく。  我ながら、何が言いたいか分からない。唐突な提案に真面目に答えている自分も分からないし、幽霊と友達になる流れで普通に話してしまっている自分もよく分からなかった。 「大丈夫、俺もいたことないから」  突然発せられた穏やか口調に、私は驚いて彼を見た。 "俺もいたことない"  つまり、友達がいたことないのだと、結びつくのにだいぶ時間がかかった。彼を見ていると、明るくて、どちらかと言えば友達に囲まれている絵が浮かぶ。揶揄われているかもしれないとも思ったが、その笑顔がどこか淋しそうで、本当のことかもしれないと思った。 「とりあえず、今日から牡丹って呼ぶわ」  背後から刺されたような衝撃が走る。私が目を丸くしていると、それをおもしろがるようにまた彼が笑う。単純に腹が立った。 「樋口です」  だから、できるだけ冷たい口調で言ってみた。加えて、視線はできるだけ威圧的になるように心掛けてみたが、彼は全く怯まない。むしろニマニマといやらしい口元をこちらに向けている。 「他人っぽいし却下。可愛いじゃん、牡丹って名前」  威嚇したつもりがまるで効果がない。  関わるだけ労力の無駄だと感じ取った私は、彼を背にして歩き始めた。 「何? 牡丹がいい?」  不覚にも足が止まる。  私は振り向き、彼を睨みつけた。 「樋口です!!」  そう言い放った後、逃げるように境内を出た。  今日の私はどうかしている。異常なくらい動悸がするし、さっきからなんだか熱っぽい。  しかし、原因は明確だ。 ──家に帰ったら真っ先に塩を振ろう。  私は家路を急いだ。
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