Side B

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* * * 「いいか? 高校二年生ってのはだな、一番中弛みのしやすい学年だ。一年は初めての高校生活、三年は最後の高校生活だから、それなりの気合と緊張感があるが、二年はそういうのを感じ取りにくい。夏休みも間近に迫っている訳だが……」 担任がホームルームにて、いつものように熱弁を振るっている。まじめに聞いている生徒もいなくはないが、大半は下を向いて細かく手を動かしている。おそらくスマホでもいじっているのだろう。  私も顔だけは正面を向いていたが、先生が言っている内容は、全く頭に入ってこなかった。  今朝から、恐ろしく調子が悪い。思えば、昨日「友達になろう」と変な提案をされた辺りからだ。何をしていても、こちらを小馬鹿にするような彼の笑顔が浮かんでくる。怒りのせいか、顔が熱くなり、鼓動も速くなっていく。 「よし」  私は決めた。 ──お祓いをしよう。  チャイムの音とともに、教室はガヤガヤと騒がしくなった。  私はスクールバッグからスマホを取り出し、さっそくお祓いの方法について調べようとした。ところが、画面を見た瞬間、私の手は止まってしまった。  『いじめっ子 対処』、『縁を切りたい』、『学校 楽しくない』などなど……最近検索したものが、びっしりと画面上に表示されている。画面を凝視するたび、まるで自分の心の中を覗いているようで、私は一気に悲しい気分になった。  そのときである。  バシャッという音とともに、視界が覆われた。それから大きな笑い声が聞こえ、カラカラと乾いた音を立てながら遠ざかっていった。  濡れた服が心地悪く肌にくっつく。またバケツで水を掛けられたのだと理解するまで、そう時間はかからなかった。  教室は少しの間だけ静まり返ったが、またすぐに活気を取り戻した。水が滴る前髪の間から覗けば、そこにあるのは、どこにでもあるような放課後の風景。私だけ切り離されてしまったかのように、視線の先では今日も日常が広がっている。
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