Side B

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「西藤を突き落としたところを、隣のクラスの林が見たって、そう言ってたの。ただ……」 「ただ?」  琴音はゴクリと唾を呑みながら、声を潜めた。 「消えたらしいよ」  それを聞いて、乃愛は眉間に皺を寄せた。 「消えたって、何が?」  周囲の熱い視線が琴音に注がれる。琴音は囁いた。 「西藤を突き落とした子の姿が消えた。まるで幽霊みたいに」  『幽霊』という単語に反応して、手先がビクンと痙攣する。頭に浮かんだのは、もちろん彼である。  幽霊の斎藤彰が、同姓同名の西藤あきらを階段から突き落とす。西藤あきらは、本来天罰が下るはずだった相手だ。恨みを抱いて、そのような行動に出てもおかしくない。  途端に青ざめた。 ──もしそうだったとしたら、私のことも恨んでいる?  何せ、私は事の元凶だ。それこそ殺したいくらい憎んでいる可能性は、とてつもなく高い。そう考えたら、思考はどんどん悪い方向へ流れていった。  しかし、そんな私をよそに、教室には甲高い笑い声が響き渡った。 「何それ?」 「幽霊なんかいるわけないじゃん」  みんな小馬鹿にするような態度で琴音を見つめている。すると、琴音の肩に乃愛の腕がストンと乗った。 「琴音、あんたまさかオカ研でも入ったの?」 「オカ研……何それ?」  琴音が渋い顔をしていると、乃愛は教室の後ろ側を指さした。視線で追うと、私の席の隣の隣。女の子が静かに読書をしていた。同じクラスのはずだが、喋り掛けたこともなければ、そもそも誰かと喋っているところも見たことがなかったので、すぐに名前が出てこない。  乃愛は指をさしたまま笑った。 「オカルト研究会。略してオカ研。うちのクラスの小島奈津美(こじまなつみ)が所属してる部活で、オカルト系の現象とか独自に研究してるみたい。まぁ部員は自分ひとりしかいないから、部活と呼べるかどうかは分からないけど」  乃愛の説明を聞き、私は改めて彼女を見た。彼女は全く興味もないといった感じで、目の前の本に集中している。  ここ最近、私には困ったことがあった。お祓いの方法をいくら検索しても、素人の私にはイマイチ正しいやり方が分からないことだ。 ──でももし玄人であれば、何かいい方法を知っているかもしれない。 「オカルトって、宇宙人とか怪奇現象とか?」 「それこそ、幽霊も対象なんじゃない?」  私は勢いよく立ち上がり、彼女の手首を引っ張った。それから、勢いを殺さず、教室を飛び出した。  そのときの女子たちがどんな顔をしていたのか、もはやいまの私にはどうでもよかった。
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