いたずら子どものおうちの事情

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いたずら子どものおうちの事情

 今日開いたら何だトレンド99位って笑 完全にタイトルだけで耳目を奪って中身のない1pで終わる罠ですみません。  ここのところ図書館で、絵本が百冊くらい、床に積み上げられて放置されるといういたずらが続いていました。コロナ対策のため、一回触られた本は全部消毒しなきゃいけないので、こんなんされたらそれだけで半日が終わってしまうのです。どこのクソガキだバカヤロー、と私も思っていたのですが。  昨晩19時頃、50代のおっさん上司が事務室にませた格好の幼女を2人連れてきました。いや絵面wwwと思った矢先、幼女2人の目を見て絶望しました。  泣くでも落ち込むでもなく、死んだ魚のような目をしている。あー、これ、昔の私だ。 「どうしてこんなことしたの?」 「黙ってても時間が過ぎるだけなんだけど」 「お母さんと学校、どっちに連絡したらいい?」  上司の説教にも表情を変えず、早くこの不愉快な時間が終わらないかなーとしか思ってない。感情を動かさず、辛く苦しい事を黙って耐えることが当たり前と思っている顔だ。  10歳そこらの幼女がしていい顔じゃない。  結局、痺れを切らした上司が学校に電話をして、そこから親にも連絡が行った。親からの折り返しの電話内容は、それはもうひどいものだった。  最後は学校の教頭と担任が来て、さらに1時間に渡る説教の上、担任が自宅まで送っていった。  その間、2人は1度たりとも、ぴくりとも表情を動かさなかった。  結論から言いうと私の予感どおり、2人の家庭には問題があった。  朝食はもちろん、学校にも行かないから昼食も食べない。よく見ると体はやせ細り、ニットのワンピの下腹部が妊婦のように膨らんでいた。これは栄養失調で腹水が溜まっているからで、アフリカの難民キャンプの子供と同じ体型だ。  母は早朝から深夜まで仕事でいない。父親は都内に住んでいて土日しか家におらず、帰ってきても夫婦共に寝ているだけ。「寝ている」の詳細はたぶん言わずもがなだろうな。そんな親から、日常的に暴力を受ける。食事はお金を渡されて、それで買ってきて食べる。  そんな子供に対して、大人たちがかけた言葉はこうだ。 「あなたがいたずらをしたのは公共のものです」 「こういうことをされると困ります」 「ちょっとした出来心では済みません」 「学校はどうしたの?」 「どうしてこんなことをした? 理解ができません。だから教えてほしい」 「楽しかったなら分かる。違う? じゃあ何で? 人に迷惑をかけようと思ったのか? 違う?」 「今日はどうして学校を休んだ? どこか体調が悪かったのか? 頭が痛かった? 気分が悪かった? そうか、心配だから明日は学校に来なさい」 「ごめんなさいの一言も言えないのか」 「本が破損したら警察を呼んでいるところだよ」 「これで構ってもらえると思って繰り返されたら困る」 「自分が相手の立場だったらどう?」 「他の人に迷惑をかけたのは分かってる?」  何でだよ!!!!  いつも相手の立場に立てとか偉そうに説教垂れるくせに、何で子供の立場になれない!? 結局、自分が共感できる範囲でしか物事を考えられないだけじゃねぇか!!!!   ふざけんな!!!!  と、怒りのあまり叫びそうになった。だって私自身、自分は相手の立場に立つのが苦手だと思って生きてきた。周りの言うことに納得できず、そのせいでつらい思いもたくさんして、まわりと同じ気持ちになれない自分をたくさん責めて、職場を転々としたのも半分くらいがそのせいだ。 「どうしてわからない?」 「なんでできない?」 「自分がされたらどう思う?」  いろんな場所でたくさん言われた。でも、昨日のことではっきりした。私は悪くなかった。私にはもう、相手の立場に立てというのは、同じ価値観を共有する大多数(マジョリティ)で徒党を組んで、それがわからない人間を攻撃し恭順させるか、排除するための薄汚い言葉にしか聞こえなくなった。  たとえそれが、その2人のためを思った言葉だとしても、当の2人の心に届かなければ、それはただ2人を否定するだけ。2人にとっては、両親から受ける暴力と何も変わらないってことが「なんでわからないの?」と。  そもそも、この絶望した目をしている人間を叱るのは無意味だ。  叱るという行為の意義は、人間の脳が感情と結びついた出来事を覚えるのが得意であることを利用して、恐怖心とともに禁忌を教え込むことにあると思う。  一方でこの2人にとっては、日常が辛く苦しいことばかりだから、恐怖心が麻痺しちゃってる。普通の子供は、大人ばかりの事務所に連れてこられたら怖くて泣いちゃうだろ。教頭先生がちょっと大きな声を出しても、ぴくりと肩を震わせることすらせず無反応。その程度のの恐怖は日常茶飯事、なんか大きな声出されたくらいにしか思えないって事なんだよ。  であれば、優しい言葉で教えないといけないよね。この2人にとっては、嬉しい気持ちの方が珍しく、心に残りやすいはずだもん。 「他の人に迷惑をかけたのは分かってる?」  上司も教頭も、この言葉への反応が「はい」でも「いいえ」でもなく無言であることが理解できなかったようだけど、「なんでわかんないの?」。2人の気持ちは、「迷惑だったかもしれないけど、なんでそんなに怒るの?」だ。「わたしたちはこれくらいじゃ怒らないよ?」「おかあさんからもっとひどいことされてるもん」「みんなはどれくらいされたら嫌だって思うの?」「こんなちょっとのことを嫌だって思う人のことを、わたしたちは理解できない」っていうのを言語化する語彙力がないから、無言。 「学校はどうしたの?」 「今日はどうして学校を休んだ? どこか体調が悪かったのか? 頭が痛かった? 気分が悪かった? そうか、心配だから明日は学校に来なさい」  馬鹿なの? 教員含めて微塵も理解してくれないし、こっちからしても理解できない奴しかいない場所に行きたいわけねーだろ。頭が痛い? 気分悪い? 嘘に決まってるだろそんなの。そう言わないと休めないって学習しちゃったからそう言ってるだけだよ。あんたが子供に嘘を吐かせてるんだって自覚ある? そうやって学校行くとき頭痛くなったり気分悪くなったりする心と体になるんだよ?「なんでわかんないの?」 「どうしてこんなことをした? 理解ができません。だから教えてほしい」 「楽しかったなら分かる。違う? じゃあ何で? 人に迷惑をかけようと思ったのか? 違う?」  人に迷惑をかけようと思ったって・・・。もうさ、君たちは悪い子です言っちゃってるよね。「善良な先生には理解できませぇん」って。 「ごめんなさいの一言も言えないのか」 「ほら、言って。迷惑かけた人に自分から言いなさい。ほら。どうした。何て言ったらいいかわからないのか?」  この言葉に対するお姉ちゃんの行動に、涙が出た。お姉ちゃんは教頭の顔をじっと見て、口だけ動かした。教頭が耳を近づけると、小さく「ごめんなさい」と言ったようだった。  でも、その場にいた大人たちには理解不能な行動だったようで、上司も同僚も、当の教頭さえも訝しげに首を傾げたようだけど、もうさ、「なんでわかんないの?」。  きっと普段なら「ごめんなさいじゃねーよ!」と言って殴られるからだろ・・・。 学校は心身を育む手段であって目的ではない。
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