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扉を貫いたそれは剣、と、言ってもよいのだろうか。とにかく刃がついていた。
一メートルを優に超える刃幅に厚みも相応。もし全てが金属だとするならばいったいどれだけの重量があるのか想像するだに恐ろしい代物だ。
室内で憮然としている女と唖然としている男の目の前でそれは引き抜かれ、入れ替わるように半壊したドアが蹴り破られた。
「晩上好! 君が鼈甲小姐かい!」
やや高い芝居がかった声と共に悠々と乗り込んで来た三人組の、とりわけ先頭を切って踏み込んで来たその姿にふたりは絶句する。せざるを得ない。
蜘蛛媛の大幹部である七本脚のひとり 《大暴食》の黒狗を初めて見たものは必ずそうなる。
それは烏の濡れ羽色の髪と瞳を持つ長身の美丈夫。
整った顔もさることながら徹底して鍛え上げられた肉体は彫刻のように美しく、しかし肩をぐるりと囲む傷。乱暴さすら感じる不規則な縫合痕から先の大きさも肌の色も胴体と微妙に噛み合わない、そして更に一回りは逞しい両腕。
その手にはそれぞれ大口径の自動拳銃が握られている。
全身には銃創と剣傷がこれでもかと並び、両足のふくらはぎから足首にかけては抉られたあとを強引に埋め合わせたかのような歪な肉の凹凸と、それを包むように後から被せられたような肌がある。
首に着けている鋼鉄の首輪は蜘蛛媛の首魁である【大奥様】への忠誠を誓うものだと当人は吹聴しているそうだが、その輪は完全に肉に食い込んでもはや首と一体であり、そこから下がる鎖は十数センチのところで無理矢理千切られたかのように歪んでいた。
そして、黒狗が身に着けているのはそれだけだ。
鍛え磨き抜かれた歪な肉体に首輪と自動拳銃。ただそれだけだ。
そう。
乗り込んできた美丈夫は、まったくの全裸だったのだ。
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