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黒狗は娼婦がしくじって孕んじまった子らしくってねえ。まあそんなガキがいくらでもいるなんて話は記者さんのほうが詳しいのかね。
ともかくそんな生まれなもんだからか、変なところで人情深くてね。自分と似たような境遇のガキどもを集めては養ってるちょいと変わったヤツさ。
まあアイツも黒社会の住人だからねえ、当然慈善事業でやってるわけじゃあない。
はは、心配せんでも孤児の手足落として物を乞わせるようなそこらのシノギ下手とは違うよ。
それどころか子分のほうからアイツに手足を差し出すほどさ。
いやいやこれは冗談でもなんでもないんだよ。アイツを見つけたらよおく見てごらん。肩とふくらはぎ辺りを特にじっくりねえ。
そんなところ見えるわけがないって? はは、いいから。会ってみればわかるよ。若いモンはせっかちでいけないねえ。
とにかくその辺は見てのお楽しみってヤツだから心の隅にでも覚えておきな。年長者の言うことは聞いておくもんだよ。
ま、細かいことはさておこうか。
アタシから見てもシノギはまあまあってところさ。そこらの有象無象よりゃずっとわかってる。
で、生まれも育ちも黒社会とくりゃあねえ、もちろん暴力もいっぱしにはヤるさ。
こんな稼業だからね。シノギが出来て半人前、暴力が出来て半人前、両方できて一人前だよ。
ほう、なんだって? アタシに暴力が出来るのかって?
そうさねえ。
はは、まあこんなババアを見りゃあ若いモンは言ってみたくもなるのかねえ。
これ娘々、オマエは余計なことしなくて良いんだよ。若い男にちょっかい出すほど暇なんなら冷めた茶でも温め直しておいで。
さてなんだったか、ああ、アタシの暴力だったかね。
そりゃあ、今の今まで暴力でこのアタシを排除できたヤツが居ないって、それだけで十分なんじゃないかね?
はは、アンタ信じてない顔してるねえ。確かに口で言うのは簡単だからねえ。
ふうむ……。じゃあこうしよう。
一回だけ許そうじゃないか。
アンタが
どんな方法で
どんな企てで
どんな謀で
アタシを狙おうと一回に限り許そうじゃないか。
もちろんそれが成功したところで誰にも報復はさせない。そこの娘々にもね。それは徹底しておくよ。
まあアタシがおっ死んだら七本脚の誰も彼もが競って大宴会だろうからね。心配せずとも感謝されこそすれ報復なんざありゃしないだろうけれども。
だから面白いアイデアがあったらいつでも……ったく、なんだい娘々、オマエは本当に煩いね。いつからアタシの小姑になったんだい?
はあ、年寄りは自慢話が長い? 自慢話なんざこれっぽっちも……いや、ああ、いや。そうだ、そうだね。アンタにアタシの話を聞かせたかったわけじゃあないんだった。
コイツはアタシが悪かった。やれやれ、歳を取るってのはイヤだねえ。
それじゃあ黒狗の話を続けようか。まあ、アタシの話なんざより見たほうがよっぽど早いかも知れないがね。
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