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こんなことになる前にね、そう心の中で続けている間に奥の扉が乱暴に開かれ、十数人の銃と盾で武装した男達が駆け込んで来た。
「あの三人を殺せ!」
鼈甲よりも早くその傍に仕えていた部下が命じ、男達もまた躊躇なく撃ち始める。
しかし男達が駆け込んで来た時点で既に剣鍵が黒狗の前に出ていた。
その姿は一部の隙もなく鋼の鎧を着込んだ騎士のようであり、手にする幅一メートル以上、長さは二メートルにも及ぼう刃のついた鉄板は剣のようにも盾のようにも見える。頭部は完全に兜で守られており面貌を下ろせば表情も伺えない。
剣鍵は手に持ったそれを床に突き立てると杖錠は背後に回り、黒狗の前後を挟むように三人ともが剣の陰に隠れた。
交渉の時間は終わった。
しかしきちんとした後ろ盾や立ち合いのある場ならまだしも、こんな私邸の中ともなれば次に来るのは暴力の時間と相場が決まっている。
死人に口なし。どんな口達者であろうとも殺してしまえばなにも言えないのだ。
両者が盾で陣営を築き銃撃戦を始めるなか、鼈甲は手下の援護を受けて奥の扉から食堂を抜け出す。
「あらあ、逃げられてえ、しまいましたあ」
「構わないよ杖錠、想定の範囲は出ていないさ。そうだな剣鍵」
「はい、既定路線です」
自動小銃で応戦しながら答える剣鍵の言葉に頷く黒狗。
「だそうだ。それよりも」
その鼻がひくひくと動いた。
「その卓が気になるな」
くちびるを濡らすように舌なめずりした黒狗を見て、剣鍵が無表情に回答する。
「三十秒お待ちくださればテーブルをご用意致しますが」
しかし黒狗は収まらない。
「わかった……だがそう急ぎはしないぞ剣鍵。それより杖錠、その間に大閘蟹だけでも取ってきてくれないかい」
その言葉に剣鍵は小さく溜息を吐き、杖錠は艶然と微笑む。
「はあい。わたしにい、お任せくださいませえ」
「では私も少々前を片付けて参ります」
錠杖が弾丸の如く床を壁を天井を蹴り室内奥へと飛び込み、同時に剣錠が盾とも剣とも言えぬ鉄塊を主の前に置いたまま前に出る。
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