第10章 抱かせていただいてもいいですか

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「そうですね」 きっとまだ、漸には東京へ行くたびに傷つくんだろう。 早く、完全に引き上げられたらいいのに。 金沢に着いたのはもう、日付が変わる前だった。 さすがに今回はふたりで一週間東京だったので、車では来ていないのでタクシーで帰る。 「ただいまー」 玄関に入った途端、漸は私に抱きついた。 「ああ、やっと家に帰ってきました」 私を抱き締める、漸の腕は少し震えていた。 「……おかえりなさい」 腕を伸ばし、ぎゅーっと漸を抱き締め返す。 もしかしたら二度と、漸と一緒にこの家へ帰ってこられなかったかもしれない。 本当によかった、漸と一緒にまたこの家に帰ってこられて。 「今日は遅いのでお風呂に入ってもう寝ましょう」 「ですね」 ゆっくり湯船には浸かりたいが、時間が時間なのでシャワーで済ませる。 「おやすみなさい、私の可愛い鹿乃子さん」 「おやすみなさい」 リラックスしているのか、漸はすぐに寝息を立てだした。 東京だと何度も夜中、寝返りを打ったりしていたのに。 「やっぱり、この家がいいですよね」
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