第10章 抱かせていただいてもいいですか

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祖父が腰を浮かせた途端、ごきっ!ともうお約束的に腰が鳴った。 「じいさん、無理すんな」 父に支えられ、祖父がその場に横になる。 ほかの家族はみんな私の勢いに面食らっていたが、漸はひとり、おかしそうにくすくす笑っている。 「ゴリラにあやまった、ですか。 確かに父より、ゴリラの方が上です」 笑いすぎて出た涙を、漸は眼鏡を浮かせて指の背で拭った。 「しっかし女に手を上げるような最低な人間なのかよ、漸の親は。 ……いや、漸には悪いけどよ」 祖母が祖父の腰に湿布を貼る。 今日は軽かったみたいで、それでそろそろと祖父はまた身体を起こした。 「かまいませんよ、もう親ではありませんから。 戸籍は抜きましたので」 きっぱりと言い切り、漸が姿勢を正す。 「そこまで親と、縁を切りてぇのか」 「はい。 あの人たちと血が繋がっていると思うだけでおぞましいので、できることならこの血を全部、入れ替えてしまいたいくらいです」 「……」 漸の決意がわかったのか、祖父はそれ以上なにも言わなくなった。
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