第10章 抱かせていただいてもいいですか

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「……まあ、俺たち職人を大事にしない人間だしな。 そういう人間と縁が切れて、よかったってことだな」 ぽつりと呟き、祖父はパリンと最中を囓った。 父と祖父にだけ話があると、漸たちは工房へと移動した。 「心配させるから、鹿乃子にだけは絶対に言うなって言われたんだけど」 母が新しいお茶を淹れてくれる。 「馴染みの問屋さんから突然、取り引きを切られて。 理由を訊いても後生だからなにも訊かないでくれ、って言われたみたい」 「え……」 それって、私が三橋の家から漸を奪ったから? 漸のお父さんは有坂染色を潰してやると言っていると、漸から聞いた。 一呉服屋にそんな力はないと思っていた。 でも、現実は。 「大丈夫なの?」 「方々に話を持っていっているけど、どこもダメみたいなのよね……」 はぁーっと、母が重いため息をつく。 これって、私のせいなのかな。 しばらくして漸たちが戻ってきた。 夕飯は食べて行けと言われたけれど、そんな気になれなくて家路につく。 「……鹿乃子さん?」
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