第10章 抱かせていただいてもいいですか

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助手席でずっと私が黙っていて、漸は心配そうだ。 「……私のせいで有坂染色はなくなるんですか」 漸を幸せにすると誓った。 でもその代償がこれだなんて、あんまりだ。 「なくなりませんよ。 私がなくさせたりしません」 「でも!」 「鹿乃子さん!」 漸が大きな声を出し、びくっと大きく肩が跳ねた。 「落ち着きましょう? 家に帰ったらお話ししますから」 「……はい」 真っ直ぐに前を見て運転する漸は、こんな状況なのに少しも揺るいでいなかった。 家に帰り、漸がコーヒーを入れてくれたけれど、手をつける気になれない。 「父が問屋や工房に圧力をかけたんです。 有坂染色と繋がりのあるところとは今後二度と、取り引きをしないと」 隣に座った漸が、そっと私の手を握る。 「呉服業界はいまや、狭い業界です。 直接でないにしてもどこかで繋がっていてもおかしくない。 三橋と直接取り引きをしているところが切られたくないがために、同じように圧力をかけたら……わかります、よね?」 黙って、頷いた。 理解したくなくても、わかる。
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