Ⅳ:side 光

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「歌、ですか」 「そう。今グループで練習してる曲」  その曲は、今年のハモバトのために、奏風先輩が作詞作曲したものだ。  すうっとした曲調のバラードで、アカペラ用に作った曲。つい口ずさみたくなるようなサビで、初めてデモテープを聞いた時は、彼にはこんな才能もあったのかと驚いた。  姉の墓の前に着き、墓石を洗った後、買ってきた花を供える。お線香を手向(たむ)け、手を合わせて……数秒後、先輩が顔をあげた。  アイコンタクトをとってこちらが頷くと、すうっと先輩が息を吸いこんだ。 「One、Twoーー……」  よくある失恋ソング。……だと、思っていた。  『いつまでも 一緒に居られると 思ってたんだ  君の匂いが消えるまで 忘れないだろう』  だけど、ふと、どうして奏風先輩がこの曲を作ったのだろうと考えてしまって。彼の方を見ると、その視線はまっすぐと『姉』に向けられていた。  『一緒に過ごした日々も 一緒に歩いた道も  口ずさんだこの歌でさえ 君とだから幸せだったーー……』  その時、俺は歌詞の意味を改めて理解した。  これは……奏風先輩が茜音(あね)に向けて作った曲だったのだ。  奏風先輩は、やっぱり俺を『茜音の代わり』としかみていない。  彼は優しいから、そんなこと言わないけれど……俺は気付いてしまった。  姉の代わり……なんとなく、そんな気はしたんだ。  だけどいつか、先輩がそれを否定して俺のことをみてくれるだろうって……思ってた……。  姉に追いつけば、姉以上の歌が歌えれば、先輩は俺を必要としてくれるだろうって、思ってたのに。  奏風先輩が歌詞に乗せている気持ちとか、この曲を気に入っている理由とか、気づかなきゃよかったことが全部、俺の心をぐちゃぐちゃに踏みつぶす。 「……光希?」  はらり、と頬に涙が伝った。奏風先輩が驚いた様子で俺の背を擦ってくれたけど、ぼろぼろと零れる涙が止まらなくて。  姉の前で言う事じゃないって分かってたけど、でも、思わず本音が口から零れてしまったのだった。 「はやく、わすれてくれれば、いいのに……」 ー 奏 ー
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