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「ハッキリ言っていいの?」
「はい、正直な評価がほしいです」
光希は、真面目な子だ。向上心がすごくて、誰よりも高みを目指している。その努力は実力となって確実に身についていた。
そんな彼の目指すてっぺんは、茜音だ。口癖のように「姉より上手くなりたい」と言っているが、姉と比べて欲しいと言われたのは初めてだった。
「高音になった時、ビブラート綺麗なのは茜音かな」
「Cメロのとこ?」
「そうそう。最後高音が響くとこ」
そう言って僕が歌いはじめると、彼もそれに合わせるように声を響かせた。視線を合わせながら、手と足でリズムをとっていく。
「そう、そこ」と彼に向って指をさせば、光希は何度もそのメロディを繰り返した。
光希は、茜音と同じファーストだ。男性ならではの高音は、観客の心をしっかりと持っていく。
茜音には茜音にしかない声を出すし、光希には光希の良さがあるのに。それでも彼は「姉さん」にこだわりを持つのだ。
「あ、もうすぐ4限はじまる。俺、行かなきゃ」
腕時計を見た光希は、そう言って立ち上がった。同じく時間を確認した僕も、荷物を纏める。今日はもう授業はないので、部室に行って他のメンバーと顔を合わせるつもりだ。
それを分かっているかのように、光希は「4限終わったら、部室行きますね」と言った。
「……光希って、ほんと練習熱心だね」
「早く姉に追いつきたいんです」
彼は何事でもないようにさらっと発したが、その表情はいつにも増して悲しげだったのを見逃さなかった。だけど、「じゃあ」と言って授業に向かう光希の後姿を、僕は何も言えずに無言で見送る。
光希の実力は、みんな認めている。
茜音の弟だから仲間に入れたわけじゃない。光希に実力があったから、仲間になれたんだ。
僕がそう言ったって、きっと上辺だと思われるだろう。
心のどこかで、僕は光希を『茜音の代わり』にしているのだから。
彼の歌声は、茜音を思い出させる。
横顔も、ふとした仕草も、茜音にそっくりで。
彼女が隣で歌ってくれているような感覚に縋りたくて、僕は光希をメンバーに入れたのだ。
大好きだった彼女のことを、いつまでも忘れないように。
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