Ⅱ:side 光

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Ⅱ:side 光

 2歳上の姉が聴かせてくれたのは、透明なハーモニーを奏でる『歌』だった。  当時、俺は15歳。中学3年生だった。歌にも音楽にも全く興味がなかったはずなのに、どうしてかその歌声が耳から離れない。その曲に聞き入る俺に対し「これ、楽器つかってないんだよ!」と瞳をキラキラさせながら、姉は得意げに言った。  これが、俺とアカペラの出会いだ。  ほどなくして、姉は仲の良い友人達とアカペラグループを結成した。4カ月後の文化祭のステージに立つ、という目標を掲げ、毎日のように練習をする。その様子を、受験勉強の傍ら俺も見ていた。  下校途中、公園の真ん中に集まる姉たちを見かけたこともあった。声をかけるつもりはなかったのだけど、そこから聞こえてきた歌声に思わず足を止めた。  ……きれいだと思った。  ボーカルと、それに合わせたコーラス、リズムを刻むボイスパーカッション。すべてが重なって、『音』を奏でる。 「すごい……」  ぽつりと漏れた本音。カラオケで歌うのと全然違う。  あんな風に歌えたら、どんなに気持ちがいいだろうか。  男性のメインボーカルに乗って聞こえてくる、姉のコーラス。高い音がすうっとこちらに響いてきて、感情を揺さぶった。  ……俺も、歌いたい。  だけどそんな気持ちを言葉にすることなんかできず、俺は唾をごくりと嚥下した。  ステージ発表は大盛況だったらしい。俺も友達と文化祭へは行ったのだけれど、ステージを見に行こうと言い出せなくて(シスコンと思われるのが嫌だった)、行けなかった。  文化祭も無事に終了し、だけども姉たちは更に練習に励んでいた。学年が変わっても、それは変わらない。俺は高校生になり、姉たちとは別の高校に通い始めた。  「お願いがあるの」と言って姉が俺の部屋に来たのは、そんなある日のことだった。 「光希、歌ってくれない?」 「はあ?!」  突然の展開に、思わず変な声が出た。意味が分からなくて「やだよ」と返すが、姉は「即答しないでよ」と話を続ける。
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