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姉の話によると、なんと今年の秋、『ハモバト!』に出場することになったのだという。
「っていっても、とりあえず予選からだけどね。奏風がうちらの動画を送って、応募してくれたらしくてさ」
「かなたって誰」
「うちらのリーダーで、メインボーカルの奴。で、光希にはその奏風のパート歌って欲しいんだよねー。それに合わせて歌いたいんだ」
なるほど、つまり、家でも練習したいから付き合えってことか。だけど前に公園で聞いた声は凄すぎて、あんな風に歌える自信はない。
でも……あの時、『俺も歌いたい』と思ったのは、確かだ。
返事が出来ないまま口を噤んでいると、自由奔放な姉は、俺の耳にイヤホンを挿し込んできた。びっくりして「なんだよ!」と声を荒げるが、彼女はただ楽しそうに笑うばかり。
「いいからいいから。これ奏風の歌ね」
そうして、イヤホンから歌が流れ始めた。男性がソロで歌っているその曲は、有名な邦楽だった。
力強いけど溶けるような優しい声。感情的な歌なのに、全部が綺麗な音で出来てる。完璧だ。すごい。
「こんなの……俺に歌えるかな……」
「光希なら出来る! お願い、光希の協力が必要なんだよー」
初めは無理だと思ったけれど……最終的には歌いたいという気持ちが勝った。こんなに上手には歌えないだろうけど、でも歌うことで姉の力になれるなら、それも嬉しかった。
その日から、合間を見つけては「奏風さんの歌」を聴き、曲を暗記した。有名な曲だから覚えるのは簡単だった。
初めて姉とハモった時は、全身に鳥肌が立った。
俺の歌に、姉のコーラスが重なって、2重奏になってる。すごい!
当たり前のことなんだろうけど、その時の俺はただただ感動して……アカペラの楽しさを知ってしまったのだった。
それから、毎日のように姉と歌を重ねていく。
練習のために俺が歌ったのはリードだったけれど……姉の歌を聴いているうちにソプラノパートも歌えるようになっていた。
「光希、意外と高い声出るね!」と姉にも褒められて、ならばと一緒にソプラノパートを練習してみたのだった。
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