Ⅲ:side 奏

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Ⅲ:side 奏

 2年前の話だ。  茜音と同じ大学に入学した僕は、既存のアカペラサークルに入部した。部員は20名ほどの小さなサークルだ。  僕と茜音はハモバト経験者だったから、入部はとても歓迎された。  ……と言っても、予選落ちだったのだけど。  去年は、自分たちがどのレベルなのか知ることができたので、今年はそれ以上の結果を残したいと思っていた。もちろん、茜音と一緒に。  サークルの練習では好きな人とグループを組めるので、茜音の他に4人、同期を誘ってグループを作った。  大学内外のイベントにも参加し、時には駅のロータリー前で野外ライブも(おこな)って、パフォーマンスをした。茜音も去年の無念を晴らすぞと、毎日のように練習に励んでいた。 「今年こそ! 本戦に出るぞー!」 「そこ、『優勝するぞ』じゃないの?」 「あ、そっか。えへへ」  新しいメンバー。新しい環境。だけども茜音は変わらずに隣に居てくれる。そのことに酷く安心し、僕は大学生活を謳歌していた。  そして、大学1年の秋。僕らは再びハモバトの参加申し込みをした。  動画審査は無事通過。それから今度は予選の為、都内の会場へ足を向けることになった。  去年は、ここで挫いてしまったけれど……今年はきっと大丈夫。  緊張に打ち勝てるように、大勢の前で歌う練習もたくさんしてきた。  だからきっと、最後までいいパフォーマンスができる。  ……と思っていたのに。  予選当日の朝、茜音と連絡が取れなくなった。  何度電話しても出ない、メッセージを送っても未読。予選の開始時刻は刻々と迫ってくる。  どうしたもんかとメンバーと頭を抱えていたら……遠くから、僕らの元へ駆け足で近寄ってくる小柄な人物が見えた。
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