Ⅲ:side 奏

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「さっきは、すまなかった」 「いえ、こちらこそ急な代役ですみません。……俺は、歌えてましたか?」 「ああ、すごかった! まるで茜音がいるみたいだったよ!」  メンバーの感想に、よかった、と光希は安心した表情を見せた。  それから僕に向かって「ありがとうございます」と頭を下げる。 「姉の代わりに、精一杯歌わせていただきます!」  そうして、代役の光希と共に、予選のステージへ向かった。  審査員の前で歌うのは、さぞ緊張しただろう。だけどそのプレッシャーに負けることなく、光希は最後まで綺麗な声で歌い切ったのだった。  控え室に戻ってすぐ、光希は自分のスマホの通知を確認していた。相手は茜音だろうか。そう思って声をかけると、光希は真っ青な顔でこちらを振り返った。  心なしか、手も震えている。  どうしたの、と問うより早く、彼は苦しそうに声を発した。 「姉のこと、なんですが……」 「茜音、なにがあったの?」 「実は……ここに向かう途中で、事故にあって……」  赤信号を飛び出した子供を助けようとしたらしい。運悪く、そこにトラックが突っ込んできて……茜音と子供ははねられたそうだ。  光希は茜音と一緒に会場へ向かっていたので、目の前で事故が起きてすぐに救急車を手配した。その時、まだ茜音は意識があって……。 「姉は『私の代わりに、ハモバトに出て』と俺に言いました。病院には付き添わなくていいから、代わりに歌ってほしい、と」 「なるほど。それで君が茜音の代わりに来てくれたんだね」 「はい。皆さんの歌に影響が出たら嫌だったので、事故のこと言えなくて……。でも、いま、親から連絡きて……」  姉が、亡くなったそうです。  消えそうな声だった。  そこにいた全員が、言葉を失って……しばらくの間、誰も声を発することができなかったのだった……。
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