最終章 ずっと私は貴方のもの

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「え、なにかおかしいですか?」 「いえ……」 結婚のお願いのときも紋付き袴で行って引かれたんだよねー。 いや、スーツと同等の正装、となればそうなるのはわかるんだけど。 「あ、タクシー、来たみたいですよ」 「はい」 戸締まりを確認して家を出る。 今日は飲むのがわかっているので、タクシーだ。 「ただいまー」 「お邪魔します……」 「おう、鹿乃子、来たのか」 実家ではすぐに祖父が、出迎えてくれた。 「それ、俺が作ってやった訪問着じゃねぇか」 漸を一瞥しただけで、あがれと祖父が促す。 もうあれに、ツッコむ気はないらしい。 「うん。 ……似合ってる、かな」 いまさらながら気づく。 これに初めて袖を通したのは漸の実家へ行ったときで、祖父にはまだ着姿を見せていないのだと。 「よく似合ってる。 もういっぱしの若奥様だ……」 徐々に祖父の声が鼻づまりになっていき、とうとう、うっうっと声を詰まらせて泣きだした。 「えっ、ちょっと! 泣かないでよ!」
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