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「すまねぇ、勝五郎を子分にしていた鹿乃子が、結婚かと思うとよぅ」
「うっ」
ずびっ、と祖父は鼻を啜ったが、……それは黒歴史なので勘弁してください。
「あらーっ、鹿乃子、綺麗ねー」
「おっ、それ、じいさんが鹿乃子の成人の祝いに作った奴じゃないか。
さすが、似合ってるな」
「鹿乃子、綺麗だわ」
私を見て、他の家族も口々に褒めてくれるのがなんだかくすぐったい。
「鹿乃子も漸くんも来たなら、話があるんだ。
ちょっと工房、いいか」
急に父が真面目な顔になり、不安になった。
有坂染色が問屋から切られたのはほんの少し前の話だ。
いまは漸が担ぎ屋のようなことをやって自分の顧客を回り、売上を作ってくれている。
工房で私たちを前にした父と祖父は、恐ろしいほど真剣な顔をしていた。
まさか、またなにかあったんじゃ。
悪い想像ばかりがあたまの中をぐるぐると回る。
「これを、受け取ってほしい」
目の前に父が置いた衣装盆には、なんだか分厚い物体がのっていた。
「……布団?」
「ちがーう!」
言った瞬間にツッコまれた。
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