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「あっ、こら!
じじぃ!」
慌てて父が、祖父の口を塞ごうとする。
……成人式の着物も祖父に譲った父が私に、花嫁衣装を?
「絶対に鹿乃子の花嫁衣装は、譲らないだってよ」
「だからじじぃ!」
父に愛されていないだなんて思ったことはない。
それでも過剰な愛情を注ぐ祖父に対して一歩引いている父を、淋しくは思っていた。
……けれど。
「……ありがとう、父さん」
出てきそうになった涙は、鼻を啜って誤魔化した。
「凄く、嬉しい」
「……喜んでくれたんならよかった」
赤い顔で父は、首の後ろをぽりぽり掻いている。
この人の子供でよかったな。
おかげで、最近ずっと考えていたことは、決心が固まったけど。
「打ち掛けは譲った分、掛下は張り切らせてもらったけどな!」
ばさっと勢いよく、祖父が着物を広げる。
「……じいちゃん?」
「おじい様?」
漸も信じられなかったみたいで、何度もパチパチと瞬きをしてそれを見ていた。
「本当にじいちゃんが作ったの?」
「おう。
最近の花嫁衣装を研究してみたんだ。
こういうのもけっこう、面白いな!」
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