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2.だから子どもなんて嫌いなんだ
「えー、今日から臨時講師を(やむなく)務めることになったリアルトという。見てのとおりの魔導師だ」
思わず心の声がもれそうになったけど、まぁあれだ。
しょせんは臨時講師、すぐにいなくなる存在だし、別に問題ないだろう。
どうせこの自己紹介だって、ほとんどの生徒はろくに話も聞いてないわけだし。
なんて思っていたら。
「えー、『見てのとおり』って言われても、杖も持ってないし全然らしくないじゃん!」
「でも剣士にしては細くねぇ?つーか、むしろ弱そう……」
好き勝手言ってくれるじゃねぇか、この野郎!
「……杖なんて攻撃力の低いモン、持ってても役に立たないだろうが。どうせ持つなら、確実に敵の息の根を止められる武器を持て」
これは、ソロ冒険者として活動するオレの持論だ。
だって、実際にそうだろ?
杖というのは、たしかに魔導師にとっては己の魔法を安定的に使用するための補助具としては最高の相棒だが、それ自体の攻撃力なんてほとんどないに等しい。
近接武器のひとつでも持っていたほうが、いざというときに、よほど役に立つだろ。
「でも、私たちは魔導師になるのであれば、最初に杖の大切さを学びます。仮にも魔導師を名乗るなら、それくらいはご存じでしょう?」
うん、一見するとマジメそうな女子だけど、プライドが高そうで、オレにたいしてみじんも敬意を払ってないな。
「もちろん、杖は役に立つ補助具であるのはまちがいないし、その意見も正しい。特にパーティーを組むなら、剣士、魔導師といった明確な役割分担も必要だろう」
もっともらしくうなずけば、相手はドヤ顔になる。
「……ただし、いかなるときでも魔導師のそばに剣士や拳闘士がいるとはかぎらない。魔法の効かない敵を前に、魔導師がひとりで戦うことになったらどうする?」
「っ、それは……っ!」
オレからの問いかけに、言葉につまる女子生徒。
この場合の正解は、『逃げる』だ。
自分じゃ敵わない相手にあたってしまったなら、いったん退却するのは戦略として正しいことだし、決して臆病なんかじゃない。
まぁオレの場合は、そこに選択肢がたくさんあるわけだけど。
「一時退却をするのも正解だが、自分自身で武器を使って敵を屠れるなら、それがいちばん確実だろ?」
「……つまり先生は、魔導師なのに剣をあつかえるということですか?」
オレのセリフに、女子生徒は挑発的な言葉をかえしてきた。
「あぁ、剣以外にも弓だとか拳闘技だとかもひととおり使えるぞ。なんたってオレは、ソロ冒険者だからな」
だからこっちも鷹揚な態度でうなずきかえせば、とたんに教室内はざわめきに満ちた。
よしよし、マルチに活躍するオレの強さにたいして、敬意を払うがいい。
……なんて思ってたのも束の間、その女子生徒の横にいた男子生徒が首をかしげると、よけいなことを口にした。
「なぁ、それって『ぼっち』ってこと?」
「だれが『ぼっち』だ!ソロ冒険者と言え!!」
「でもさー、仲間もなしってことは、どんなに言いつくろったところで、ぼっちなのは変わんなくね?」
とたんに笑いにつつまれる教室内に、オレは口もとをヒクつかせたまま、こぶしをにぎりしめるしかなかった。
この野郎、だからオレは子どもなんて嫌いなんだよ───!!
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