歌と鳥

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🐤 放課後、おれは部活に行くため、自分の教室を出た。中学では運動系の部活に入っていたが、高校になってからは合唱部に入っている。合唱部も多少、筋トレをしたり、走り込みをしたりするから、そこが入部の決め手だった。 課題曲のことを考えながら、ふと、昼間の浩平の様子を思い出した。それから、部活が終わったら一緒に帰りたいな、と思い至った。  浩平は、帰宅部だけど図書室にこもって本を読んだり授業の復習をしたりもするから、約束しておれの部活が終わるまで待ってもらうこともあった。今日も浩平の都合が良ければそうしようと、部室に行く前に浩平のクラスに寄ることにした。  浩平の一組の教室を目指しながら、廊下を歩く。気づけば自然と鼻歌を歌っていた。途中で歌声がどんどん大きくなってしまい、ついに通り過ぎ様に女子に怪訝な顔をされた。綺麗な女の子だったから、少し、恥ずかしかった。その女の子の姿を見送ってから前を向くと、一組の廊下に浩平の姿が見えた。その傍にはおれも見覚えのある一組の男子がいる。  その男子は、大量のノートを廊下にぶちまけたらしかった。たぶん、クラス委員か何かの代表で職員室に持っていくつもりだったんだろう。落としたノートを、浩平が丁寧に拾い集めて渡していた。「何、落としてんだよ」と浩平が笑う。相手も「ごめん、ごめん」と笑っていた。「俺、優しいから、半分持っていってやるよ」とか、ふざけながら話しているのも聞こえた。 あ、やばい、職員室に行ってしまう、とおれは慌てて走った。浩平の傍まで走りこんで、勢いよく立ち止まった。 浩平が「近っ!」と言ったので一歩、後ろに下がる。 「どうした? 牧村」 浩平に声をかけられ、むっ、とした。また『牧村』か。いつもなら、心がもやもやするだけなのに、今はなんだかむかむかと腹が立ってきていた。全く関係ないはずなのに、ノートを拾ってもらったこいつとおれとを比べられているような気さえする。
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