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「何、見てたんだ?」
「漫画」
つまらなそうに浩平が言う。少し頬が赤いような気がする。本当かな、と少し疑いながら、おれは携帯に届いていた文面を思い出していた。
『りお、先にいつもの公園で待ってる』
『なんか今日の俺、変だったな』
二回に分けて送られてきた言葉。二回目は少し時間が経ってからきていた。まさか先に文面で名前を呼ばれるとは思わなかったから、そわそわと落ち着かない気持ちで、おれは浩平の隣に座った。
「自分で変だって分かってたのかよ」
おれがアプリの文面のことを持ち出して、からかってみると、
「お前も放課後、ちょっと変だったよ」
と、返される。おれは暫し何も言えなくなった。
隣を窺うと、浩平は上を向いていた。おれもそれに倣うと、花のいっぱいついた桜の枝が見える。桜ってこういう枝の大群でできてるんだな、としみじみした。盗み見た浩平の横顔の方が綺麗で、ずっと見ていられると思ったけど。
そう考えていると、浩平がおれの方をちらりと見た。そのとき、なぜかふと、言おうと思った。
「おれ、浩平のこと好きだと思う。彼氏になりたいとかそういう気持ちで」
自然とそんなふうに言葉が出ていた。ずっと言うつもりはなかったのに。もしかして桜パワーか?
「浩平はどう思ってますか。おれのこと」
気恥ずかしくて敬語になってしまった。浩平はおれの顔を見たまま、瞳を大きくしていた。それから一度俯き、やがて浩平の口が「お、」と動いた。その次のこと。
バサバサッ、と大きな音が辺りに響き渡った。え、何だ、と二人して音のする方に振り返る。見るとフェンスの向こうで、草の間から小鳥の大群が飛び立っていくところだった。空の真ん中を大量の雀が飛んでいた。そして、そのままどこかに飛び去っていった。
おれは走って後ろのフェンスの方へ向かう。
「すげえ、畑に潜んでたのかな。気づかなかった」
公園を仕切るフェンスの向こうには雑草だらけの畑がある。そこから飛び立ったらしい。それがちょっと面白くておれは目を輝かせて空を見ていた。
「なぁ、今のなんか映画っぽくなかったか? 綺麗だな」
笑いながら、浩平の方に振り返ると、浩平がおれのことを見ていた。その優しく射貫くような視線にドキッとして、おれは自分の歯を緩く噛んだ。
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