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 亮介はいわゆるバイセクシャルと言われる種の人間で、性別に特にこだわりはない。興味本位で男を抱いてみたら悪くなかった。それだけのことだ。快感を与えてくれるのは、男と女のどちらかと比べることがナンセンスだと思っているくらいだ。  亮介が、すっかり身支度を整えてソファに座っているとバスタオルで体をくるんだ女性が濡れ髪で部屋に戻ってきた。 「……シャワーいいの?」 「ああ、帰って家で浴びるよ」 「そう」  女性の目はとても冷ややかだった。この距離感に亮介は冷静に『次はないな』と思いながら、再び、煙草に火をつけた。 ***  会社の定時を過ぎた喫煙室。そこには数人の男子社員の先客がいて、一日の仕事を終えてさっぱりとした顔で談笑をしている姿がみえる。亮介は、煙草を一本箱から取り出し、咥えながらその扉を開けた。様々な種類の香ばしい煙草の煙が鼻孔をくすぐる。 「あ、噂をすれば、課長じゃないですかー」 「昨日、見ましたよ!」 「んー、何が?」 目が合った同じ課の後輩二人が亮介に駆け寄り、にやにやしながら話しかける。 「また、綺麗なお姉さん連れて歩いてましたね」 「俺も見ました! どこで見つけたんですか、あんなイイ女」 (そういえば昨日は駅前のフレンチレストランで食事をしたから、人通りが多い場所を通ったっけ) 誰かに目撃されたことで特に動じることはない。亮介は会社では、課長という役職に位置して、仕事もそれなりにこなし、その反面"スマートに遊ぶお兄様"というキャラクターで通っている。恵まれた容姿は、特に手入れをせずとも、そのままで異性を惹きつけるらしく、時々こうして同性から、やっかまれることもある。特定を作らず、結婚もしていない。できないのではなくて、あえてしないことを選択している自由な立場。そういう意味では自分の築き上げてきたキャラクターに助けられていると思う。 「どうしてこう次から次へとイイ女が課長のところに集まるんでしょうね!」 「うーん、どうしてだろうねぇ」  別に、女にはこだわってないんだけどね、と心の中で付け加えてみたりしている。まさか、自分が女だけじゃなく男も嗜むだなんて聞いたら目の前の二人は卒倒してしまうだろう。亮介をやっかむ彼らの外見は二人とも、中の中、もしくは中の下で、特に際立った個性もない。
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