プロローグ:

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――君は何処にでもいる大勢の中の一人にしか映らない。 駅前はいつになく人が多かった。どうやら駅前の広場にあるビッグモニタに、周囲が釘付けになっているようだった。青木(あおき)亮(りょう)介(すけ)は連れの女性に気を遣いながら、立ち止まる人をかき分けて進んでいた。 人垣の合間から見えるそのモニタには、キラキラ輝いたステージに笑顔で舞い踊るアイドルの姿。画面には大きな文字で"Tricolore"のロゴ。カメラ目線で愛想をふりまいているその姿に、周囲からは黄色い歓声が上がっていた。亮介は、画面に意識することもなく、その歓声を背に浴びながら、先へと急いだ。 「亮介、聞いてるの?」 「え、あ、ゴメン。聞いてなかった」 駅前のシティホテルの一室で、ベッドの上にいる裸の男女。亮介は煙草に火をつけたまま、ぼんやりとしていて、それを隣の女性に指摘されてしまった。その女性は、いわゆる彼女ではない、体の繋がりだけの関係だ。 (今日で二度目? 三度目くらいだっけ) なんとなく連絡が来て、軽く食事をして、そのままお決まりのホテルコース。体だけで繋がっている男女の行き着くところは、だいたいこんなもんだ。 「シャワー浴びる?」 「お先にどうぞ」 「うん、わかった」 何か言いたげの女性の表情には特に触れず、亮介は先を譲った。 (もう一回っていう気分じゃないんだよな) 女性が容姿端麗であることはわかっているが、タイプかと聞かれればそういうわけでもない。ただ外見のレベルが高い女性と並んで歩くのは悪い気はしない。それだけのことだ。相手が自分に好意があるというだけで、燃え上がるほど、自分は若くないことに気付かされる。 「こんなんじゃなかったはずだけど」  そう亮介は呟くと、ベッドから起き上がり、脱ぎ捨ててあった下着を拾い上げて身に付ける。気に入った相手をスマートに抱く技術は、大人になるにつれ、身についた。その代わり、何度も求めたい、夜通し抱いていたいと思えるほどの相手に、最近、巡り合っていない。それは女性にかぎらず、だ。 (そういえば最近、男を抱いてないな)
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