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ぷろろーぐ
ここは都内の外れ、昔ながらの肩を寄せ合うようなアパートが立ち並ぶここは遠くに富士山が見えるから富士見町。
お家賃はお財布にも優しく、若い学生が多い町だ。
「疲れたぁ」
髪の毛を乾かして、電気を消して布団の中へもぐりこんだ。
夜に寝るとき、常夜灯を付ける人もいるが、里奈はきっちりカーテンを引いて真っ暗にしないと眠れない派。
朝日で目覚めるのが苦手なのだ。
とうぜん電気を消した後は目が慣れるまでは何も見えない。
時刻は、甲高い音が聞こえそうなほど静まった深夜。
秋の夜長に壁の向こうから聞こえる声。
最初は、犬の鳴き声だと無視していた。
真っ黒な闇の中で響いてくる。見えない分、耳が鋭く音を捉える。
(いや、そもそもこのアパートはペット禁止だし)
「……ん……あん……ダメ」
声はだんだん激しさを増していく。どうやらナニの真っ最中。
「――――!!」
(あんたらが盛り上がれば盛り上がるほどこちらは変な気分になっていくんですが!)
熱い声が収まったと胸をなでおろしたが――お若いカップルは二回戦へ突入。
そういう色事がご無沙汰なのも原因なのかもしれないが、聞かされる方はたまったものではない。
(…………無理!)
里奈はむっくり起き上がると、携帯と鍵をひっつかんで財布の入った上着をひっかけて部屋を飛び出した。
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