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「地図なんぞ、必要ない」
出発前、眼鏡をかけた如何にもインテリ然とした、同じ組のイケすかない野郎に地図を渡されたのだが、男はそれを投げ返してしまっていた。
「俺は漢だ。そんなもん要らねえ」
組の構成員の前でそう啖呵を切った。
そして、「この組には、真の漢は居ねえのかよ」とまで言ってしまっていた。
いまさらその地図を取りに引き返すなど、この男にできるはずもない。
まあこの暗闇の中、地図が手元にあったとしても、ろくに見えやしないのだが。
「いいさ。やってやるぜ!この俺様が下克上ってヤツをなっ!」
男は組の中では「鉄砲玉」と呼ばれていた。
もちろん、いい意味で使われていないことは確かだ。
何故この「鉄砲玉」と、その「鉄砲玉」をアニキと慕う手下は森の奥に向かうのか。
それはこの男達自体、今ひとつ理解していない。
自分達の知らない間に会が開かれ、全てが決まっていた。
一応、このシノギは志願制だったので、逃げることはできた。
だが組の構成員の中でも、いつも男に何かと突っかかってくる女に「お前逃げるのか」と挑発されれば、この男にとって手を挙げない道理はなかった。
そして、それも“鉄砲玉”としての運命だと受け入れた。
ヤルしかねえ。
ヤルしかねえんだ!
「アニキ、待ってくださいよお」
それでも徐々に目が暗闇に慣れてきた、アニキと呼ばれた男は、手下を置いて一人先に進む。
---もし無事終えたら、俺は…。
頭の中に、幼馴染の千代の顔が浮かぶ。
幼馴染の千代も、なんの因果か今は同じ組の構成員だ。
千代の親は確か警察の幹部のはずだ。そのせいなのかどうかは定かではないが、子供の頃からライフルなどの銃は身近な存在だったらしい。いつしか手に取っていたライフルで頭角を表し、その腕を買われ、千代は自ら進んでこの道に入ってきていた。
ライフル使いの名手の千代に対し、方や“皮肉にも鉄砲玉”と呼ばれる自分。釣り合うはずもない不相応の恋だが、このシノギを無事に終え、男を見せれば、千代の目も変わるはず。
それだけが今の男の原動力だった。
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