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「マナちゃん、サックス吹くのは嫌いじゃない?」
「……はい。今でも休日に吹いてます」
「蒼、楽器があるのかどうか、確認してこい」
「はい!」
蒼は慌てて楽屋を飛び出す。
「おい、マナ。これはチャンスだ。ここで元アイドルのおまえが、サックスを演奏できて、ピンチヒッターで活躍できれば話題になる」
「……怖いです。私なんかが出て、バンドのファンの方たちがどう思うか」
「つべこべ言わずに、やれ! 社長命令だ」
空也の怒号にマナはビクッと肩を震わせるが、返事は出てこない。
「マナちゃん」
健一がそっとマナの肩に手をおく。
「君はこの先、どうしたいか、ビジョンはあるの?」
「……」
マナは小さく首を横に振る。
「じゃあスカイの言うことを聞いて。大丈夫、きっとうまくいく」
「でも……」
「きっとファンの人はライブを成功してほしいはずだよ。君の力で困っているバンドを助けてあげるんだ」
「……」
「君の演奏で魅了するんだ。表舞台に立つ人間になるなら覚悟を決めろ」
健一のゆっくりとしてそれでいてしっかりとした声音に諭され、マナは意を決したようだ。ギュッと目をつぶったと思ったら、その目を見開いて空也を見た。
「社長……」
「なんだ」
「私、演奏してきていいでしょうか」
「行ってこい。ぶちかましてこい」
こく、と頷いたマナの瞳にはもう迷いはなかった。
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