第1章:空也と健一と、そして亮介

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 三人で、まさにその場のノリで始まったバンドは、Hopesと名付けられ、唯一の音楽経験者の亮介を中心に音楽活動をスタートさせた。  いざ音楽を始めてみると、空也は持ち前の器用さと負けず嫌いが爆発した。もちろん楽器はまったくの未経験だったがギターとピアノを練習してみたらやった分だけ上手くなっていくのが楽しかった。昔に比べれば品行方正な毎日の中で、ずっと吐き出せずに燻っていた苛立ちも詞にのせて歌にして吐き出せば、最高に気持ちがいいことを知った。その後、自分たちはHopesとして活躍するために三人で高校の軽音部に所属し、その夏の文化祭では数曲を披露するまでに成長していた。  亮介は歌もギターもうまくて、決して空也に媚びることはなくクールだった。そこがよかった。今まで出会ったやつはいつもこちらの顔色ばかり伺って、まともに話せなかった。そして常に一緒に行動しているだけで、亮介が自分のモノになったような気がしていた。  高校を卒業してからも、音楽活動は三人で続けた。亮介は付属の大学の経済学部へ進んだ。音大にでも行くのかと思ったら、親から普通の会社員になれる道を残しておくようにと言われたらしい。面倒見のいい健一は、学校の先生の勧めで介護の専門学校に行った。確かに、あいつらしい。  空也は母親からさっさと家を出ていけと言われ、フリーターになった。どのバイトも長続きしなかったけれど、最低限食っていくだけの収入があればいいとその日暮らしを続け、時には女性から囲われてヒモみたいなこともした。  バンド活動は順調でちょうど所属バンドが解散して、自由の身だった彰をサポートベースに迎えて実質四人組のバンドとしてこの界隈では知らない人間はいないアマチュアバンドになっていた。Hopesの楽曲は基本、亮介が作曲をして、空也が作詞をするパターンで数々の名曲が生まれていった。
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