第1章:空也と健一と、そして亮介

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 しかし、その絆は予告なく、ぷつりと切れた。  メジャーデビューを3月に控えたその年の1月。年を明けていきなり亮介がHopesを「辞めたい」ではなく「辞める」と断言した。すでに事務所には話を通していたのか、自分たちの気持ちの整理がつかないまま、デビューに向けて準備していたものはすべて亮介のいないHopesに差し替えられていた。まるでHopesは最初から三人組だったかのように、亮介の痕跡はすべて消された。周囲は青木亮介という存在はもともとHopesにいなかったことにしようとしている。それを認めるのが怖かった。  亮介が脱退することが決まって自暴自棄になった自分は口論の挙句、健一をただの穴として抱いたことがあった。今思えば、無理矢理突っ込んだし、おそらく耐えられるような痛みじゃなかったと思う。声もあげず、ただひたすら、あのときの健一はされるがままになっていた。あんなのは、抱いたとは言えない。まるで強姦だ。取り返しのつかないことをしてしまった。健一は残された大事なメンバーだ。こんなことで健一までも失うわけにはいかない。  意を決して再び部屋に戻ると健一はそこにはすでにいなかった。それどころか散々荒れていた部屋は綺麗に片づけられていた。健一はここに自分が戻ってくることをちゃんとわかっていたのだ。  そして次の日、健一はいつもの笑顔で俺を現場で迎えた。
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