第1章:空也と健一と、そして亮介

6/9

311人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
「おはよう、スカイ」  何事もなかったような顔をしてレコーディングが始まった。だから空也も何も言わなかった。してしまったことをなかったことにはできない。 ――『そのかわり僕で最後にして。あとはちゃんとHopesのリーダーとして立ち直って』  もちろん健一にあんなことをしたのは一度きりだ。あの日のことをお互いに話題にしたこともない。けどあの日があったから、今の自分がいるのは間違いない。でも自分は、健一に"あのときは、ありがとう"と言える器の大きい男にはまだなれずにいる。  その後、Ryoの熱狂的なファンでRyoのギター演奏を完コピーできるやつがいると聞いた健一が大和を連れてきた。まさに大和の演奏は自分たちが今まで見てきたRyoそのままで驚いた。それに大和は「Ryoが戻ってくるまで僕がこの場所を守りたい」と自分たちに申し出たのだ。もしかすると自分たち以上に、HopesにはRyoが必要だと感じているファン代表のような大和の言葉に心を打たれた。一緒に過ごすうちに大和のことはHopesのファンではなく当たり前のように仲間だと思うようになり、一年後、HopesのメンバーとしてYamatoを正式に迎え、四人で十年間Hopesとして走り続けてきたのだ。こうしてHopesは亮介のいない新生Hopesとして歩き出すことになる。  そして亮介もまたHopesのRyoではない新しい人生を歩き出していた。交流のあった亮介の弟、英明から元気でやっていることも聞いていた。きっとお互いの人生は、二度と交わることがないと思っていた。  あの日、出会ってしまうまでは。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

311人が本棚に入れています
本棚に追加