第1章:空也と健一と、そして亮介

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 Hopesを結成してから十年が経過していた――  その日はHopesで出演する歌番組の収録があり楽屋で待機していた。スタジオの様子を映し出しているモニタからは小さなボリュームでスタジオの音も拾えていた。  そして瞬間、空也と健一は聞き覚えのある声を察知して顔を見合わせ、楽屋のモニタを凝視した。画面では、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで売れている高校生アイドルTricoloreが歌の収録をしていた。トラブルでもあったのか、時折、中断しているようだ。 「なんで、亮介の声がするんだ」 「だよね。ちょっと早いけどスタジオに行ってみる?」  やはり聞き間違いではないようだった。モニタから聞こえたスタジオの音声の中に、確かに亮介の声がした。なんであいつがこんなところにいるんだ。 「ねぇ、この青い服の子、体調悪いのかな」 「確か、この子スカイくんのお気に入りじゃねーの?」  再びステージ上の風景が映し出され、そこにいたTricoloreの様子を見て、大和がメンバーの一人を指さして、彰が応えた。二人が気にしている青い服の子というのは、Tricoloreでイメージカラーの青を身に着けている水原蒼でメンバーの中でも一番の歌唱力を誇る。ただのアイドルにしておくにはもったいないと空也は常々思っていた。実際、声をかけてみれば、高校生とは思えないくらいに礼儀正しく落ち着いていて、好印象を抱いた。カメラが回っているときは溢れんばかりの笑顔で跳ねまわり、オフのときは穏やかで物静かな少年になる。正直このギャップに、たまらなく欲情した。  駆け出しの男性アイドルを食ったことは今までも、数えきれないくらいある。けれど水原蒼は迂闊には手を出してはいけないような、そんな脆さも秘めていた。 「蒼クン、俺でよければなんでも相談に乗るよ」  そんな優しい言葉をかけるなんて自分らしくないと思う。でも、水原蒼には手を差し伸べたくなった。 「スカイさん、いつもありがとうございます」  そして水原蒼は感謝の気持ちも忘れない。 「アイドルは大変だからね。言えないこともたくさん抱えているだろうし」 「いえ、俺は恵まれてる方です。信頼できる人、協力してくださる人もちゃんといますし……」  そのとき、ほんのり熱を帯びた水原蒼の顔を見て、空也は久々にぞくぞくとする高揚感を味わった。この感覚を覚えている。水原蒼はすでに誰かのモノなのだ。しかしそれが、まさか亮介だなんてこのときは思いもしなかった。
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