第1章:空也と健一と、そして亮介

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 結局、歌収録後に倒れた水原蒼を、なぜかスタジオにいた亮介が躊躇なく抱き上げ運んでいった。その後も、自分の陳腐な挑発に軽率に乗るなんて冷静さを欠くような、今まで見たことのない青木亮介がいた。  もともと亮介はストレートだったはずだ。男でも平気だったなんて初耳だ。しかもそのときの亮介には婚約者がいた。そんな立場でありながら水原蒼を所有しているような顔をするのだ。年月が亮介を変えてしまったのか、十年ぶりの亮介に驚きの連続だった。  再会した亮介にはもっといろんなことを聞きたいはずだった。どうしてあのとき、自分たちに相談しないでHopes脱退を勝手に決めたのか。もう音楽には未練がないのか。戻ってくるつもりはなかったのか。でも、そんなことはどうでもよくなった。十年という年月は、自分の中にある亮介に対する気持ちをどうでもよくさせてしまった――はずだった。  水原蒼が亮介のモノだと知った途端、空也は水原蒼に執着した。仕事でコラボCDを出す計画をたてたり、プロモーションで一緒に行動したり、いわゆる職権をこれでもかというくらいに乱用した。今までのように人のモンに対する興味なのか、それとも亮介に対する押し殺していた気持ちなのか。複雑すぎて自分にもわからなかった。  もし水原蒼を抱いたら、それを知った亮介はどんな顔をするかを想像しただけで、ゾクゾクした。
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