第2章:知らなければよかった想い

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「亮介さん、俺、車を入口までもってきますね」 「ん、たのんだ」  彰は次の打ち合わせに向かい、立花も帰りの車を用意するために部屋を出て、健一は会議室に散乱した書類を片づけている。手持ち無沙汰の亮介はスマホをいじっていた。 「おい」  空也はそっと亮介に近づき耳打ちした。 「なんだ」 「健一のことだけど……」  亮介はスマホから目を離して、さきほどの軽蔑するようなまなざしとは違い、諭すような表情で空也を見つめた。 「おまえさ、そろそろけじめつけろよ」 「なんだよ、けじめって」 「都合よくそばに置いとくだけでその気がないなら、健一を自由にしてやれ」 「自由……?」 「おまえは健一に甘え過ぎなんだよ。じゃあな」  亮介はそのまま鞄をもって立ち上がった。 「おい、話はまだ終わって……」  そんな空也の呼びかけにも華麗にスルーして、片付けている健一には「おつかれ」と声をかけ、部屋を出て行った。  亮介の言葉が空也には引っかかった。そもそも健一を自由にしてやれってなんだ。甘え過ぎってなんだ。まるで自分が健一を縛り付けているように聞こえる。 「いやー、打ち合わせもだいぶ進んだね」  健一が打ち合わせ資料をファイリングしながら空也に聞こえるようにつぶやく。 「りょーくんのおかげで楽曲もいい仕上がりになりそうだし、順風満帆だね」  何も答えられなかった。だから、なんでおまえはそんな風に普通に会話できるんだ。 「あれ? スカイ、本当に体調悪いの?」  返事をしない自分を心配したのか、健一は座っている空也に近づく。 「食欲はある? 冷蔵庫にまだうどんがあったから、夕飯はお腹に優しいものにする?」 「なんでだよ」 「え?」  空也は急に立ち上がり健一の胸倉をつかんだ。座っていた椅子がバタンと大きな音を立てて倒れる。 「何、どうしたの。何が気に食わないの?」  健一も亮介と同じく、空也の恫喝に動じない。
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