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「何か言うことないのかよ。おまえ、俺のこと好きなんだろ?」
「ああ、なんだ。その話?」
健一は顔をふわりと緩ませ、胸倉を掴んでいる空也の手をぽんぽんと叩いて、ゆっくりと外すよう促した。
「言っておくけどりょーくんは悪くないからね。僕の気持ちをずっと前から知ってるから、今も進歩してないことに驚いたんだと思う」
「ずっと前って……」
「うーん、高校の時? 正確にはそれよりずっと前から好きだったよ、スカイのこと。でも、だからってスカイに何かしてほしいわけじゃないんだ」
「なんだ、それ」
「おかしいよね。でも本当なんだ。だからスカイは今までと一緒でいいから」
「……っざけんなよ、てめぇ!」
空也は目の前のテーブルを拳で殴りつけた。ガシンと鈍く大きな音が会議室に響いた。
「なんなんだよ! 好きなのに、何かしてほしいわけじゃないってなんだよ!」
「スカイ……?」
「じゃあ、おまえは何が望みなんだよ。俺に何しろっていうんだよ」
「だから……今まで通りでいいって……」
「できるかよ! なんでおまえは俺のことを好きなんて言えるんだ! 俺はおまえを自分の都合いいようにしか使わない。これからもそうだ。こんな俺を好きだなんておかしいだろ!」
声を荒げた勢いで、空也はすぐそばにあったアルミ製のゴミ箱を蹴り飛ばした。カーンと乾いた大きな音を立てて、ゴミ箱は中身が飛び散らせながら床に転がった。
わかっている。今の自分はまるで子供だ。ただ、この状況が気に入らないから叫んでいるだけの、ただの子供だ。それでも気が収まらなかった。
「なんで……好きとか……言えるんだよ」
知らなければ健一のことを意識せずに済んだ。これからもずっと健一と普通でいられたのに、そんなことを知ってしまったらどういう態度をしていけばいいのか、わからない。
「わかった」
しばらくの沈黙のあとで、健一は優しく呟いた。
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