第2章:知らなければよかった想い

6/6

311人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
 予想外の健一の行動に空也は戸惑いしかなかった。そもそもなぜ自分は健一が自分を好きであることが気に入らないのだろう。今の居心地のいい関係を壊したくないからなのか。本当にそれだけなのか。 『都合よくそばに置いとくだけでその気がないなら、健一を自由にしてやれ』 『おまえは健一に甘え過ぎなんだよ』  亮介の言葉に思い当たることなんて山ほどあった。  結局、自分が健一を束縛していた。自分から言わなくても、健一が自分の世話を焼くのが当たり前だと思っていたし、なんでそうするのかなんて考えたことがなかった。  健一の行動のすべてが、空也が好きだからというたったそれだけの理由なら、自分は健一に何を応えてやるべきか、わからない。自分にあんなに酷いことをされた健一が自分のそばにいたのは、自分のことが好きだったからなら、今まで健一にしてきたすべてを健一は受け入れたということになる。それに比べて自分の器は、なんて小さいのだろう。  それならいっそ、自分が手放せば解決するのではないか。それが健一を自由にする唯一の方法だとしたら、健一を引き止めることも求めることも自分はしてはいけない。  これでよかった。これで健一は自由だ。そう思えばいいだけなのに心はいつまでも晴れなかった。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

311人が本棚に入れています
本棚に追加