第3章:人生の半分以上を一緒に過ごして

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第3章:人生の半分以上を一緒に過ごして

***  目を覚ました空也の視界に飛び込んできたのは、見慣れた寝室の天井だった。部屋の奥まで太陽が射し込んでいるのを見ると、おそらく正午は過ぎているだろう。  昨日はあれからまっすぐ家に帰る気になれず、馴染みのクラブに顔を出した。最近はライブ準備で忙しく、夜出歩くこともしていなかったが、久しぶりに、男でも女でもどっちでもいいから手当たり次第、抱いてやろうと意気込んだはずなのに、結局、空振りに終わった  クラブの店員や居合わせた客は、久しぶりの空也を歓迎してくれたのに、空也自身が昔みたいに後先考えずに声をかけるということがなぜかバカバカしく思えて、行動に移せなかった。もちろん空也にアプローチしてきた女もいた。以前抱いた男もいた。それでもすべてが面倒くさくなった。  飲めない酒を浴びるように飲んで飲みつぶれて、かろうじてタクシーに住所を告げて自宅に向かい、寝室のベッドにダイブするという、空也にとっては、らしからぬほど下半身に健全な夜を過ごした。  まだアルコールが残ったままのけだるい体を起こし、寝室のカーテンを開け、窓を開ける。そして窓際に置いてある霧吹きで観葉植物に水をやる。まだ寝ぼけたままの頭でそこまでは、習慣になっていた。 「健一、霧吹きどこ置いたー?」  置いてあるはずの霧吹きがなくてダイニングに向かうと、なぜだかいつもより部屋が暗い。いつもは開いているカーテンが開いていないせいだ。薄暗い部屋の中、キッチンに向かえば、食器かごのところに霧吹きが伏せておいてあった。 「ちゃんと置いとけよ」  そう呟きながら、霧吹きを手にとって気づく。振り向けば、やはり部屋は薄暗いままだった。 「そっか、そうだったな」  空也は忘れかけていた現実を思い出した。  いつもは空也が午後に起きてくれば、たいてい健一が午前中に家事全般を片づけていて、寝室以外の部屋中のカーテンと窓を開けておいてくれる。そして寝起きの悪い空也に向かって「おはよー」と、にこやかに声をかけてくれる。
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