第3章:人生の半分以上を一緒に過ごして

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 健一の隣にいる見知らぬ優男が空也に向かって頭を下げた。 『どういうことだよ、お前は俺が好きだったんじゃないのか』 『うん、好きだったよ。昨日までね。今日恋人ができたの』 『「は? おまえ何言ってんだよ、そんなことは俺が認めない』 『スカイには関係ないじゃん』  隣の優男は健一の肩をそっと抱いた。 『てめぇ、健一に触るな!』 『いい加減にしてよ。僕はね、やっとスカイから開放されて自由になったんだ。これからは人生もっと楽しまないとね。僕はこの人と幸せになるんだ』  ちょっと待て。おまえの幸せってそいつと一緒にいることなのか。じゃあ、おまえは今まで俺のそばにいて不幸だったのか。それなら、なんで俺のそばにいたんだよ。 「どういうことだよ、健一……おい、健一!」  空也は思わず飛び起きた。見渡すと部屋は真っ暗で、夢を見ていたのだとわかる。転がっている空き缶を見る限り、リビングのソファに横たわって、ビールを数本飲んだあとにテレビを見ながら寝てしまったらしい。平日の昼過ぎに起きて、ビール数本飲んで夕方まで寝てるとか、最悪だ。しかも夢見が悪すぎた。 「おい健一、水……」と言いかけて、部屋がしんと静まっていることに気づく。部屋には自分しかいないのだ。もう健一は来ることはない。  そもそも、なんで健一がいないんだ。なんで来ないんだ。どうしてこうなったんだ。健一がいるのは自分にとって当たり前のことで健一がいない世界なんて、自分にはあり得なかった。  空也は立ち上がって寝室に投げ出してあった鞄からスマホを取り出した。着信が数件あったが、どれも急ぎじゃないし、何より健一からじゃないのでかけ直す必要はない。発信履歴から亮介の携帯に電話をする。 「もしもし」  2コール目で亮介が出た。 「亮介、リハまだやってるか?」 「やってるけど、どうした?」 「健一、そばにいるか?」
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