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その声音は極力優しくした。健一が自分のことをなんでも知っているように、自分だって健一のことを誰よりも知っていると自負している。だから、どうして健一は自分に何も望まないのか、きっと一番気に食わなかったのはそこなのだ。
『だからってスカイに何かしてほしいわけじゃないんだ』という健一の言葉は、空也のプライドを傷つけた。健一をずっと守ってきたつもりの自分は健一の望むことを叶えてやれない小さな男じゃない。
「それ……言わなきゃいけない?」
「言えよ」
「もう別にいいんだって……」
「俺がよくねぇ」
「ワガママだなあ、もう」
健一は呆れたように、ふ、と頬を緩ませた。
「要するに僕はちゃんとスカイにフラレろってことなのね。はいはい、わかりました。僕は君がずっと好きでした。君の彼女とか、君に抱かれた男の子たちがうらやましかった。どんなに望んでも僕は恋愛対象にならな……」
それ以上の言葉は言わせなかった。空也は健一を抱き寄せて、その唇を塞いだ。それは一瞬の出来事で、空也は腕を緩ませ、驚いたままフリーズした健一の顔を見つめた。
「ス……カイ?」
「うん、やっぱり大丈夫だ。俺はおまえとキスできる」
「は?」
「家族相手にキスなんて出来ないだろ。でも俺はおまえにキスもできる。たぶんその先もできると思う」
「その先って……」
目の前の健一の頬は、みるみるうちに朱色に染まっていく。
「おまえは俺とこういうことをしたいんだろ。恋人になりたいんだろ。上等だ。おまえを俺の恋人にしてやる」
「何言って……んの?」
「何もしてもらえなくてもいいなんて嘘をつくな。俺はおまえに嘘をついたことなんて一度もない」
「それは……確かにそうだけど」
「わかったらさっさと部屋に来い。俺の部屋、片付けろ」
「僕、まだ心の整理ができてないんだけど……」
「知るか」
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