第3章:人生の半分以上を一緒に過ごして

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 目の前の健一は、むーっとこっちを睨みつけている。ああ、知っている。このあとは山ほど小言を言われるのだ。 「わかった。僕、今日は機嫌がいいから許してあげる」  意外にも健一は満面の笑みを返した。 「フン。早くしろ」 「はいはい。鍵と携帯だけ取ってくるから待っててね」  部屋に入っていった健一の背を見送り、空也は自分の胸がどきどきと鼓動を刻んでいることに気づいた。そして、柔らかな唇の感触がずっと消えない。だんだん耳から顔にかけて熱を帯びてきた。 「いやいやいや……中坊か、俺は……」  思わずぐしゃぐしゃと前髪をかきむしる。 『俺はおまえにキスもできる。たぶんその先もできると思う」  それを今、確信した。しかしキスだけで、こんなにもドキドキしてしまうのに、その先なんてどんな顔してすればいいのだろう。でも今は、健一と早くその先をしたい。  自分の腕の中でどんな顔をするのか、どんな風に甘えてくれるのか、どんな風に啼いてくれるのか、見たことのない健一を見たくてたまらない。自分が知らない健一があるなんて、考えたこともなかったのに、今はそれが嫌な自分がいる。 「おまたせ、じゃ行こうか」  カーディガンを羽織った健一が目の前で運動靴を履いている。見慣れた光景のはずなのに、なぜだか今は健一の行動すべてを見逃したくない。 「な、なに?」 「おまえってそんなにかわいかった?」 「ふぇっ?」 「あー、なんでもない。今のナシ」  思わず健一から、ふい、っと顔を背ける。 「も、もう! 酔ってんの?」 「昼過ぎからビール飲んでリビングで寝てた」 「はぁ? ダメじゃん。明日、顔むくむよー」 「うるせぇよ」  一緒にエレベーターに乗り込み、空也は健一の手を取った。健一は空也の手をぎゅっと握り返す。その仕草が、いちいちかわいくて困る。 
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