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第4章:恋人として
「クッソいい天気だな」
「ホントだねぇ」
気づけば四月は終わりに近づいていて、近所の桜もすっかり葉桜になった。
金城空也はバンドメンバーと屋上の柵に持たれかかり、タバコの煙を燻らせながら、ビルの近くの公園を意味おろしていた。普段は室内に閉じこもっていることが多いこともあり、屋上から見下ろす景色で季節の移り変わりを知ることが多い。あと、事務所にこのビルを選んだのは屋上でタバコが吸えるというのが一番の決め手だったことも思い出した。
今年も花見はできなかった。思えば花見なんてしたことあったっけ。
「今度の夏フェスのステージイメージ、昨日メールしたけど見た?」
隣で同じようにタバコを燻らせていた彰が、唐突に声をかけてくる。
「てめぇ、ヤニ吸ってるときに仕事の話なんて野暮なこというじゃねぇ」
「だってスカイくん、タバコ吸ってるときくらいしか、じっとしてないんだもん」
人を落ち着きない子供みたいに言いやがって、と軽く睨みつけるが、そんなことでは十年一緒にいるメンバーは怯みもしない。
つい先日、十周年という節目の記念ライブイベントを大成功に納めたHopesだったが、待ってましたとばかりに、次のイベントの準備が始まった。若者に大人気のネットテレビ局『Bさくらチャンネル』が毎年主催している夏フェスだ。
Hopesは毎年、出演者側として招待されているのだが、今年は主催側として参加することになり、Hopesの屋台骨と言っても過言ではないドラムのケンこと、緑川健一は一年以上前から企画会議に積極的に参加していた。健一は主に運営・スポンサーとの交渉を担当し、ベースを担当している彰も健一の指示でチケットや舞台装置などのデザインの指揮を執っていた。
「じゃ、これだけ見て。パンフの決定デザイン」
彰がわざと空也の視界に入るようにスマホの画面を差し出す。
「お、かっこいいじゃねぇか」
「ありがと。で、もう印刷終わったって連絡あったから広報チームがスポンサー様に事前配布の手配を始めるところって感じ」
「おい、もうそこまで進んでるなら、俺の確認いらねーだろ」
「そんなこと言って、気に入らないとどんな手を使っても止めろっていうくせにー」
「そりゃ、Hopesが絡むからには納得のいくものにしたいだろ」
「ははは。スカイくんは気に入らないと予算と工数関係なく、ノーを出してくれるから、クオリティ重視のプロジェクトリーダーとしては適任だね」
「うるせえな」
クオリティ重視という言葉に思い当たる節はある。最近は空也まで運営会議に強制参加させられているのだが、その中で、遠慮なくこれまでの流れをぶった斬った発言をして、そのたびに健一に睨まれている。運営スタッフたちに、これまでの労をねぎらいつつ、意見を言うべきだ、という健一の言葉はわからなくもないが、そんな気遣いのできる器じゃないし、Hopesに関することには手を抜けないのだから思ったままを言うまでだ。
そのせいで、周囲を振り回している自覚はあるが、あとは健一がなんとかするだろ。
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