第5章:嵐の前の静けさ

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「知らないと思うけど、健一がスカイの行動は厳重に管理しますって頭下げてくれてるから、引き受けてるんだからね」 「っだよ、それ。そんなにめんどくさいことになってるなら俺らを使わなきゃいいだろ」 「スカイ、そうやってすぐに投げ出すのは悪い癖だよ。そもそも僕たちが選んだアーティストだけで音楽フェスをやるなんてすごいことじゃないか。それを企画してくれた桜庭さんのお願いなんだから、ちゃんと聞かなくちゃ」  お前は、俺の母さんか。 「最近はおとなしくなったようだけど、油断しないでね。近頃は現役のアイドルを使ってスクープを狙ってくるゴシップ専門の出版社やwebサイト運営会社も増えてきてるの。くれぐれもスキャンダルには気をつけて」  なんで自分だけがそんな注意を受けなくてはいけないんだと思ったが、そもそも健一はまったくといっていいほど浮いた話がないし、彰は嫁を溺愛しているし、大和は恋人以外にはまったく興味がないときてる。なるほど、メンバーでは本当に俺だけなのか。 「わかったよ、おとなしくしてりゃいいんだろ」 「そういうこと。理解してくれてよかったわ」  それにしても、なんでうちのメンバーはおとなしいやつばかりなんだろうな。だから俺が目立つんだよな、クソ。 「でもスカイもこれからは本格的に楽曲のほうでフェスの準備をしてもらうことになるし、遊ぶ時間も取れないと思います」 「念のためよ。健一くんがここまで動いてくれてるのにすべて水の泡なんて許されないわ」 「スキャンダル怖いですからね」 「ほんとよ。今は火のないところに煙を立たせる、もしくは炎上させる世の中だからね」 「ケッ」  二人の言いたいことはわかった。ただ、健一が頭を下げてまでスポンサーを依頼しているなんて聞くと、まあ仕方ないかという気持ちにもなる。言いなりになるのは癪だが、ビジネスなんだからそうも言ってられない。 「しかも貴方たちは個人事務所なんだから、火消しをしてくれる後ろ楯もない。それを十分に自覚することね」 「へーへー」  かつてHopesは多くのアーティストを抱えた大きな事務所に所属していた。同時期にデビューしたアーティストとは比べ物にならないくらいの、大体的なプロモーションを始めとした戦略の数々に、事務所の力というのを思い知った。しかし同時にやりたい活動をするのに制約が増えてきたことや、もっと個々のメンバーの活動の幅を自由に広げたいという思いもあり、事務所を円満退所したのだが、その後も数年は自分たちで全てプロデュースする難しさも思い知った。
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