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「スカイ、ごめん!」
目の前の健一は突然、空也を押しのけるようにして離れる。何があったのか訳がわからず、足元をふらつかせた空也の横を健一はすり抜けていく。
「健一?」
「ごめん、今はそれしか言えないけど、もうちょっと待って欲しい」
「は? 何を待つんだよ」
「部屋に戻るね、本当にごめん!」
「おい、ちょっと待てよ」
空也の声は届かないくらいに健一は足早に部屋を出て行ってしまった。玄関のドアがバタンと閉まる音が虚しく部屋に響く。
どういうことだ、何を間違えたんだ、俺が何をしたんだ。自問自答しながらソファにどすんと腰かける。がっつきすぎたのか、いや、キスすらしてないし、強引だったとも思えない。なんなら、押し倒して五分後には挿れられるスピード感を持つ金城空也史上、一番スローペースだったと断言できる。
思えば、最近の健一はいつもそうだった。今日ほど明らかに避けられたことはないが、恋人になってからずっと一定距離を置かれている気がする。そばにいたら触れたいと思うのに、だいたい健一は空也の手ぎりぎり届かない距離にいる。
もちろん嫌われているわけではないのはわかる。仕事では普段通りだからだ。
こうして二人きりになっても、恋人らしいことが何ひとつできていない。恋人というのは、甘えたり甘えさせたり、そういう時間を過ごすことが許される関係なのではないか。自分たちは幼馴染で仕事のパートナーから、恋人になったのではなかったのか。
「お前、俺と恋人になりたいんじゃなかったのかよ」
はぁ、とため息をつく。これじゃあ、何のために付き合っているのか、わからない。もしかして、お互い仕事ですれ違っている方が健一にとっては都合がいいのか。自分たちは、この先ずっとこのまま、なんだろうか――
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