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第6章:恋人である健一の想い
「……カイ、スカイ!」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには録音ブースにいたはずの亮介がすぐ隣にいた。
「なんだ?」
「どうしたもこうしたもないだろ。お前、今日、やる気なさすぎだろ」
「そっか、悪い」
あまりにあっさりと認めたからだろうか、亮介は肩透かしをくらったのか、ったく、と一言呟いてまたブースに戻っていった。
今日は亮介のギターソロパートのレコーディングだった。もともと空也が亮介に依頼して実現したレコーディングで、その張本人にやる気がないなんて亮介が怒るのも無理はない。
「ちょっと休憩入れますか?」
ディレクターが控え目に尋ねてきたので空也は黙って頷いて立ち上がる。机の上に置いてあったタバコをデニムのポケットにねじ込み、そのままスタジオの外に出て、喫煙所へ向かった。
「いい天気だな、今日も」
テラスに繋がる扉を開けると、まっさきに青い空が飛び込んできた。このレコーディングスタジオは喫煙者用のテラスがあって、喫煙者の多いHopesもとってはありがたいスタジオだ。
結局、昨日の健一は自分の部屋に行ったきり、リビングには戻ってこなかった。深夜一時頃に「もう遅いからこのままこっちで寝るね」とスマホにメッセージを送ってきたのが最後で、今朝起きると、空也の部屋でいつも健一が整えてくれている朝の支度は済ませてあり、空也が寝ている間に仕事に出かけたとわかった。
――顔も合わせたくないってことかよ。
まるで話し合うことすら拒否されたみたいだ。
そんな煮え切らない気分のまま、約束の時間に間に合うようにスタジオに来たのだが、仕事に身が入らないまま、レコーディングを迎えてしまったというわけだ。乗り気じゃないスタッフがいれば、てめえのモチベーションはてめぇで管理しろ、と文句をいうことが常だった自分からすれば、ふがいない。亮介もきっとそう思っていることだろう。
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