第6章:恋人である健一の想い

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「あー。もう面倒くせぇわ、マジで」 「お前の数万倍常識人だぞ、健一は」 「そういうことじゃねぇよ」  健一が常識人であることは百も承知だ。だが、健一とは長い付き合いでありながら、いわゆる色恋沙汰と言われる類の話をしたことがない。だから健一がどんな人を好きになるのか、どんな風に恋に落ちるのか、好きになった相手にどんな態度をとるのか、そもそもどうして欲しいのか、知らないことばかりなのだ。例えば、恋人という存在に対してはドライに振る舞うタイプの人間なのか、そうじゃないのかも、全くわからない。  ただ、お互いの同意の元で、自分たちは友達から恋人になったのは間違いないはずだ。けれど、今は仕事以外では距離を置かれ、避けられている。これは一体、どういうことなのか、教えてほしいだなんて亮介に言えるはずがない。 「おまえらってセックスしたことあるのか」 「やってねぇ」 「は?」 「やってねぇって言ってんだろ、言わせんな!」  きっ、と隣の亮介の顔を睨むと、亮介の手には持っていたはずの煙草がなく、ただ、空也を驚いた顔で見つめていた。 「煙草どうした」 「あ? ああ、クソッ、おまえのせいで落としただろうが」 「なんで俺のせいなんだよ」  亮介は渋々煙草を拾い上げているが、はっきりいって落とすほどのことではない。 「おまえ、もしかしてヤラせてもらえなくて落ち込んでんのか」 「……」  ここは黙秘権を使わせてもらう。死んでも認めてやるもんか。
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