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「あー。もう面倒くせぇわ、マジで」
「お前の数万倍常識人だぞ、健一は」
「そういうことじゃねぇよ」
健一が常識人であることは百も承知だ。だが、健一とは長い付き合いでありながら、いわゆる色恋沙汰と言われる類の話をしたことがない。だから健一がどんな人を好きになるのか、どんな風に恋に落ちるのか、好きになった相手にどんな態度をとるのか、そもそもどうして欲しいのか、知らないことばかりなのだ。例えば、恋人という存在に対してはドライに振る舞うタイプの人間なのか、そうじゃないのかも、全くわからない。
ただ、お互いの同意の元で、自分たちは友達から恋人になったのは間違いないはずだ。けれど、今は仕事以外では距離を置かれ、避けられている。これは一体、どういうことなのか、教えてほしいだなんて亮介に言えるはずがない。
「おまえらってセックスしたことあるのか」
「やってねぇ」
「は?」
「やってねぇって言ってんだろ、言わせんな!」
きっ、と隣の亮介の顔を睨むと、亮介の手には持っていたはずの煙草がなく、ただ、空也を驚いた顔で見つめていた。
「煙草どうした」
「あ? ああ、クソッ、おまえのせいで落としただろうが」
「なんで俺のせいなんだよ」
亮介は渋々煙草を拾い上げているが、はっきりいって落とすほどのことではない。
「おまえ、もしかしてヤラせてもらえなくて落ち込んでんのか」
「……」
ここは黙秘権を使わせてもらう。死んでも認めてやるもんか。
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