第6章:恋人である健一の想い

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「つーか、相手知ってんのにヤッてるかどうかとか、聞くなよ。悪趣味なやつだな」 「あのな、俺だってお前と健一のセックスなんて想像したくねーわ。つーか、昔、何度も見たわ。お前ライブハウスのトイレで毎回、違うファンとヤリまくってただろ」 「もう時効だろ、それは」 「女の喘ぎ声が響くトイレの前で、健一と彰と三人で誰が止めにいくかってジャンケンしてたの、おまえ知らないだろ」 「知るか」  つくづく、あの頃は穴に不自由していなかったと思う。 「そんな下半身に節操のないおまえが健一とまだヤッてないなんて聞いたらビビるだろ、そりゃ」 「いろいろあるんだよ」  俺にはないけどな。 「おまえのことだから大事にしてるって感じでもなさそうだけど、健一が拒んでるってことなら、まぁ、わからんでもない」 「なんでだよ」 「なんだ図星か」  知った風な口を聞く亮介に思わず突っかかってしまい、あっさりとボロが出た。こんな安っぽい挑発にまんまと引っかかってしまうほどに、今の自分は余裕がないのだと認識させられる。 「そもそも健一はおまえのことが高校のときから好きだったんだ。けれどずっとその気持ちを言わずにいた。言わないと決めていたんだと思う」 「だから、なんだよ」 「結論を急ぐな。それに比べておまえは健一を恋愛対象と認識したのは最近だ。健一がすぐに気持ちを切り替えられないのは、当たり前だろう」 「だからって避けることないだろうがよ」  それならそう言ってくれれば待つことだってできる。そんなにも自分は余裕のない人間だと思われているのだろうか。 「健一は夏フェスのために走り回ってるんだろ? 今はきっとそういうタイミングじゃないだけだ。どうせ俺たちは若くないんだから、時間かけていけばいいじゃないか」  亮介に言われるのは腹が立つが、別に焦っているつもりはない。ただわからないだけだ。恋人として向き合おうとすることがそんなにいけないことなのか。
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