第6章:恋人である健一の想い

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「おまえはどーなの」 「何がだ?」 「蒼と、出会ってからどれくらいでしたんだよ、セックス」 「……俺は関係ないだろ」 「おまえだって、どうせ付き合ってすぐだろ」 「いや、そもそも付き合っていなかった」 「は?」  耳を疑った。もともとこいつはそんな一夜限りのセックスができるタイプの人間じゃなかった。硬派なギタリストってことでガードが硬いと有名だったくらいだ。 「手短に言うと、年齢を詐称していることが俺にバレて、口止め料を身体で払ってもらった」 「うわ、最低」  思った以上に酷くて引いた。なんだよ、口止め料って。 「仕方ないだろ。実際に付き合うことになるなんて思わなかったんだ」 「おまえ、二度と俺に、下半身に節操がないとか言うな」  結局のところ、自分たちは似たもの同士ってことがわかっただけだ。なんだかオチがついたので、空也はすっかり短くなった煙草を灰皿でもみ消す。そろそろレコーディングを再開させなければ。 「俺から、健一に言ってやろうか?」 「絶対に言うな。俺様が余裕のない男みたいだろが」 「ないじゃねーか」 「うるせぇな」 「ま、おまえも人並みに悩むってことがわかったよ」  完全にからかわれているのは間違いないが、亮介に話したことで少しだけ気が紛れたのも事実だ。解決したわけではないのに不思議なもんだ。ただ口止め料にセックスは絶対におかしいから、いつかネタにしてやろうと心に誓った。
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