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マナに事務所の場所を伝え、自分たちのスタジオに戻る。さきほど亮介が関係者と話をしていくからレコーディングを少し遅らせてもらうように根回ししていた。さすが元社会人だけあって、抜かりない。
「戻ったぞー」
スタジオに入ると、神妙な顔つきのスタッフとさっきまではいなかった健一がいた。
「あれ、おまえ来てたの。だったら呼べばよかったな。おまえのファンがいてさ、その話で盛り上がって」
「なにしてんの」
その声音は低く、重い。もちろんこの空気は既視感がある。健一ママのお説教モードの時のアレだ。
「何ってちょっと遅れるって連絡はしただろ」
亮介が、だけどな。
「連絡すればいいってもんじゃない。スカイ、このあとのりょーちんの予定把握してないでしょ」
「そりゃ全部は知らねーけど、なんかあった?」
すぐ後ろにいた亮介に聞く。
「ああ、ちょっと大きめのクライアントの楽曲提供についてのミーティングがある。間に合わないことはないが」
「りょーちんはスカイに甘過ぎるよ。そのクライアント様は今までずっと連絡を熱心に取り続けてきて、ようやく今日のミーティングにこぎつけた。それをスカイのワガママなんかで遅れるなんて絶対ありえないから!」
健一の言葉には空也をキレさせるには十分な棘があった。それでも黙って聞いていた。ここで暴れないだけ、自分はまだ大人になったほうだとつくづく思う。
「おまえに言われなくても時間管理はしている。レコーディングが遅らせたのはスカイだけの責任ではないからそれは誤解しないでくれ」
珍しく亮介のほうが苛立った言い方をしている。別にかばってほしいわけではなかったが、あまりにも一方的な健一の言い方が気になったのだろう。
そして元メンバーといえどもHopesメンバー同士の言い争いに、周囲のスタッフも困惑した顔を見せている。そりゃそうだ。
「いいよ、俺のせいで遅れたんだし、悪かったな。俺の調子がイマイチだったから亮介が気分転換させてくれただけだ。じゃレコーディング進めようぜ」
「スカイ、話はまだ終わってないよ! だいたいスカイがそんないい加減だから」
「健一、おまえは出てけ」
空也の言葉に、空気がピンと張り詰める。
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